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命の危険も!犬の膵炎(急性膵炎)とは?その原因、症状、治療方法と予防を獣医師が徹底解説。

膵炎と書かれていれば、膵臓に炎症が起きることはわかりますが、そもそもの膵臓の機能や、膵炎の原因、症状、検査、治療などについてお伝えしていきたいと思います。
膵炎のことを知ることで、皆様の不安を少しでも解消することができれば幸いです。


獣医師 阿部 透

犬の膵炎とは?

犬の膵炎の基礎知識

膵炎を知る前に、そもそもの膵臓の位置や働きを簡単にご紹介したいと思います。
膵臓は、胃の裏側から十二指腸に隣接するように位置しています。

膵臓の主な働きは?

①外分泌腺としての役割

外分泌とは消化酵素や汗などを分泌することです。膵臓はアルカリ性の膵液を分泌し、消化酵素であるアミラーゼや、リパーゼ、トリプシノーゲンなどを消化管に分泌し、食べ物を分解します。

②内分泌としての役割

内分泌とはホルモンを分泌することです。膵臓は血糖値の調節をするホルモンなどを分泌しています。
血糖値を調整するホルモンには、血糖値を上昇させるグルカゴンや下降させるインスリンがあります。

膵炎とは?

膵炎には「急性膵炎」と「慢性膵炎」があります。

慢性膵炎とは?

「慢性膵炎」は症状がはっきりとしないことも多く、死亡率は低い疾患ですが、症状が長期的にあり、糖尿病や膵外分泌不全に発展する可能性があります。犬の膵炎は急性膵炎が多く、慢性膵炎は少ないと言われています。

急性膵炎とは?

「急性膵炎」は症状が強く、死亡する可能性も高い疾患です。膵臓が分泌しているトリプシノーゲンという消化酵素が、様々な原因により膵臓の中で活性化してしまい、膵臓自体が消化されることで発症すると考えられています。症状は軽症のものから、亡くなる可能性もあるほどの重症まであり、治療や診断、重症度の評価が重要な疾患です。

膵炎に罹りやすい犬種・年齢・特徴は?

膵炎に罹りやすい犬種や年齢について報告があるものを記載します。

・犬種

急性膵炎に罹りやすい犬種
ミニチュア・シュナウザー、ダックスフンド、テリア犬種、ミニチュア・プードル、コッカー・スパニエル、アラスカン・マラミュート

慢性膵炎に罹りやすい犬種
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、コリー、ボクサー

高リスクの犬種では、遺伝的に脂質の代謝に異常が出やすいことや、膵臓の外分泌から膵臓自身を保護してくれている酵素の異常が原因の可能性が示唆されています。

・年齢

7歳以上で急性膵炎のリスクが上昇しますが、全年齢で発症します。

・特徴

2024年までの犬の急性膵炎の研究で、最も多い原因として考えられているのは「特発性」であり、これは原因がはっきりと解明できていないことを示しています。膵炎に関与するリスク因子として、犬種や年齢、高脂肪食などが挙げられています。

その他の特徴として、膵炎は軽症~重症まで重症度の幅が大きいです。軽症であれば一時的な食欲不振や元気の低下で治まることもありますが、特に重症例では数日で亡くなってしまうこともある怖い疾患です。

犬の膵炎の原因は?

膵炎と関係が報告されているリスク因子をいくつかご紹介します。

1.食事による影響

・高脂肪食
・普段食べないフード
・人の食事の食べ残し
・ゴミを漁った

2.治療薬や毒物による影響

・抗がん剤(L-アスパラキナーゼ)
・抗てんかん薬(フェノバルビタール、臭化カリウム)
・利尿剤(フロセミド)
・殺虫剤(リン酸エステルを含むもの)など

3.内分泌疾患

・副腎皮質機能亢進症
・甲状腺機能低下症
・糖尿病

4.脂質異常症(高トリグリセリド血症)

5.年齢

7歳以上で罹患率が上昇しますが、全年齢で発症することが知られています。

6.その他

・加齢
・肥満
・肝炎、胆管炎
・避妊・去勢手術がされていること
・手術全般の術後など

上記の多くは因果関係がはっきりと解明されていないです。

過去には急性膵炎の治療薬として使用されるステロイドもリスク因子に挙げられていましたが、ステロイドの使用により治療成績が上がったという報告もあり、これからの研究によって原因解明や治療法の確立が望まれています。

犬の膵炎の症状と診断

膵炎の代表的な症状は?

急性膵炎の症状は?

犬の急性膵炎に特異的な症状は少ないですが、祈りの姿勢という特徴的なポーズがあります。これは腹痛で伏せの姿勢から、腰を上げているような姿勢のことです。実際には、この姿勢をしている膵炎の症例は多くはありません。

その他には食欲不振、嘔吐、元気がない、腹痛、多飲多尿、下痢があります。
また、重症例では黄疸(おうだん)やショックなどのような致命的な症状もあります。

慢性膵炎の症状は?

犬の慢性膵炎では嘔吐、元気・食欲不振、腹部痛、下痢などが軽度~中程度で不定期に発症します。慢性膵炎では、膵臓の機能が障害を受けることにより、糖尿病や膵外分泌不全になってしまう可能性があります。糖尿病や膵外分泌不全の症状については、またの機会にご紹介したいと思います。

診断と検査

膵炎を疑う場合には、他の疾患の可能性も考慮していくつかの検査を行い、検査と症状を総合的に判断します。よく行う検査は便検査、血液検査、X-ray検査、超音波検査を行います。

膵炎であるかどうか確定させるためには、膵臓の一部を切除して行う生検がありますが、麻酔をする必要があることや、生検自体が膵炎の要因になる可能性があります。そのため、膵炎だけを疑う場合には生検は行わないことが多いです。

ただし、疑う疾患に腫瘍が含まれる場合には、生検が必要になることもあります。ここからは、膵炎に対して注意したい検査項目をまとめていきます。

・血液検査

膵炎の場合には、血液検査でアミラーゼやリパーゼが上昇することがあります。また、炎症のマーカーであるCRPも上昇することが多いです。

さらに近年では犬の膵炎の検査のために、複数種類の血中リパーゼによる検査が開発されています。開発されている血中リパーゼには犬膵特異的リパーゼ(Spec cPL)、DGGRリパーゼ、vLIPがあり、これらは膵臓に炎症があると上昇します。これらの検査のおかげでより膵炎の診断がしやすくなっていますが、これらの血中リパーゼは他の疾患でも上昇することが知られています。よって、これらの項目が高かったから絶対に膵炎であるとも、治療を始めないといけないとも言えません。

他の検査の結果や、犬の症状を総合的に判断する必要があります。その他にも、膵炎が重度の場合にはDIC(播種性血管内凝固症候群)という致死的な状態になっていないか確認するために血液検査で血小板数や、凝固系の項目を検査することがあります。

・超音波検査

膵炎がある場合の典型的な超音波検査の所見は、膵臓の腫大(大きくなっていること)している、腹腔内の脂肪の高エコー(白く見えること)が多く、その他にも腹水の出現、胃や十二指腸が炎症により肥厚(分厚くなること)、胆管の拡張などが検出されることがあります。

・リパーゼや血液検査の重要性

各種リパーゼ測定を含む血液検査は、膵炎かどうかを見極めるためにとても重要です。また、血液検査で膵炎とは関与が低い項目で異常があった場合には、それについても治療が必要になる可能性があるので、血液検査は他の隠れた疾患を調べるためにとても重要性が高い検査です。

どの検査が重要かどうかは、その時の症状から疑う疾患によって異なるので、獣医師とどの検査を行うのか相談しながら決めていくことが重要です。

犬の膵炎の治療

治療方法

急性膵炎の治療に今のところ特効薬はありません。
基本的な治療は対症療法で輸液、鎮痛、制吐、栄養管理、抗炎症での治療です。この他にも行われる治療もあるので、一部をまとめます。

・輸液

急性膵炎では食欲不振や嘔吐などから脱水が生じやすく、脱水状態になると膵臓への血流も減少します。膵臓の血流が減少すると、膵臓に栄養の供給も減るためさらに悪化する可能性があるため、輸液を行うことで血流が減少してしまうことを抑えます。

・鎮痛

急性膵炎では痛みが出やすい疾患であるため、鎮痛剤により痛みの軽減を行います。

・制吐

痛みも嘔吐も食欲が出なくなる原因であるため、吐き気を抑える治療を行います。

・栄養管理

過去には3日ほどの絶食・絶水が推奨されていたこともありましたが、今は絶食による消化管運動の低下などの悪影響を考慮して、なるべく早く液体状のものでも良いので、低脂肪のフードを摂取することが推奨されています。

ただし、嘔吐がある場合には食べることは難しいため、腹痛や嘔吐がないことや、給餌しても体調の悪化がない場合に給餌量を増やしていきます。

・抗炎症

急性膵炎の炎症を抑えるために抗炎症治療としてステロイドの使用について様々な議論があります。メリットとしては炎症を抑えるため、症状の改善や死亡率の低下させる可能性があるという報告もあります。デメリットとして胃腸障害や血栓症のリスクなどの副作用が懸念されています。

その他の抗炎症治療としてフザプラジブという成分の薬が、急性膵炎の治療薬として開発されています。フザプラジブにも抗炎症作用があり、治療効果が期待される薬です。まだ新しい薬のため、治療効果に関する報告があまり多くないため標準治療には入っていませんが、これからデータが集まっていくことで標準治療になる可能性があります。

・抗生剤

基本的に急性膵炎は感染症ではないため、抗生剤の使用はされません。
ただし、重症の場合には腸粘膜のバリア機能が炎症により破綻し、細菌が本来いる腸管以外の場所に移動してしまうことで、細菌による感染が生じる可能性があります。この場合には抗生剤の使用が必須になるため、急性膵炎には絶対に抗生剤を使用しないという訳ではありません。

・その他

その他にも胃酸分泌抑制、蛋白分解酵素阻害、DICに対する治療もあります。
これらは急性膵炎の状態によって治療を行うか判断していきます。

急性膵炎と慢性膵炎の治療法の違い

急性膵炎の治療法などについては前述させていただきましたが、慢性膵炎についてお伝えします。
慢性膵炎は、膵臓の組織が損傷を受け、その部位が線維化し正常な組織ではないものに変わってしまい、膵臓の機能が低下し得る状態です。症状は曖昧なことが多いですが、何かのタイミングで急性膵炎と同じような症状に移行することもあります。

症状が強く出る場合には急性膵炎と同じ治療を行います。また慢性膵炎に対して急性膵炎と同じく、食餌療法で低脂肪食が推奨されることがあります。

治療費は?どれくらい通院が必要?

重症で1週間の入院治療を行う場合には、約20~25万円になることもあります。これは上記の治療に加え、血液検査や超音波検査を頻繁に行い、鼻からカテーテルを挿入し、そこから液体状のフードを入れるなどした場合の金額です。

軽症で入院を行わず、注射と内服薬で治療していく場合には、検査費が約2~4万円、治療費が約1~2万円になることもあります。

急性膵炎は軽症から重症まで症状の幅が広いため、治療費もその症例の状態によって大きく差が出ます。実際の治療費や検査の費用に関しては、動物病院にお問い合わせください。

犬の膵炎の予防と食事管理の注意点

膵炎の再発を防ぐための予防策

再発を防ぐための方法ですが、現状ではこれをやっていれば大丈夫というものはありません。膵炎は明確な原因がわかっていない場合が多いため、はっきりとした対処が行えないというのが実情です。

ただし、膵炎の原因の項目に記載させていただいた、膵炎に罹患してしまうリスクを上げる要因はある程度の排除が可能かと思います。

具体的には、基礎疾患として内分泌疾患があるのであればその治療を行うべきですし、人のご飯を食べてしまう場合にはそれを避ける、肥満であれば適正体重にコントロールしてあげるなどです。

その他には脂肪分の高いフードがリスク因子になるので、低脂肪食に切り替えることも考慮した方が良いです。フードの変更は、他の疾患との兼ね合いもあるので動物病院と相談してください。

食餌管理のポイント、ドッグフードは何を選ぶべき?

食餌管理のポイントとしては、

① 適正体重のためのカロリーコントロール
② 低脂肪食
③ 人の食べ物は与えない

症例によっては他の疾患との兼ね合いで、フードを変更できないこともあります。
有名なものでは腎臓病がある場合には、症状が強く出ている疾患の治療を優先するため、腎臓病用のフードになることも多いです。また、フードの変更で消化器症状が出てしまう犬もいるため、フードを変更するかどうかは動物病院で相談して決めてください。

ちゅ~るやささみの活用法

ちゅ~るやささみは脂質が少ないため、膵炎で食欲が低下してしまっている犬に給餌しても良いと思います。これらを食べることで、他のフードも食べてくれる犬もいます。

経口的に栄養を得ることは、消化管の機能の改善にもつながるためお勧めします。ただし食物アレルギーがある場合には、悪化してしまうこともあるので注意は必要です。

犬の膵炎に関するQ&A

Q:犬の膵炎の死亡率はどのくらいですか?

A:犬の急性膵炎での死亡率は27~58%という報告があります。

Q:犬の膵炎を治療する際に避けるべき行動は?

A:人の食べ物や、脂肪分の多いフードは避けた方が良いです。その他にも、以前は絶食することが推奨されていましたが、現在では食べて体調が悪くなる場合を除き、可能であれば少量から食べてもらうことが推奨されています。

Q:犬の膵炎と関連がある病気は何か?

A:肥満、内分泌疾患(副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病)、脂質代謝異常症、肝炎、胆管炎が関連しているという報告があります。また、腫瘍に対する治療に用いる抗がん剤が膵炎を誘発させてしまうことがあります。

Q:犬の膵炎を悪化させる食べ物は何か?

A:人の食べ物や、ゴミを漁る行為、脂肪分の多いフードは膵炎の誘発と悪化要因になるためご注意ください。

まとめ

犬の膵炎は原因がはっきりとは分からないことが多い疾患ですが、亡くなってしまう可能性がある厄介な疾患です。

膵炎の予防策として適正体重を維持することや、人の食べ物をあげないことは膵炎だけでなく、他の疾患のリスクを減らすためにも非常に重要です。犬の健康のためにも実践していただきたいです。

膵炎と疑わしい症状があれば、動物病院の受診をお願いいたします。

また、体重のコントロールが上手くいかないなどあれば動物病院でご相談いただけると幸いです。

東中野アック動物医療センター院長 阿部 透
東中野アック動物医療センター院長
阿部 透
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当院では犬・猫以外のエキゾチックアニマルの診療も行っております。
その子たちにも安心できる医療を届けられるよう努力してまいります。

治療や飼育方法など気になることがあれば気軽にご相談いただけると、我々も皆様がどんなことに対して気になっているか共有できるので、ぜひご相談ください。

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